取材監修:管理栄養士 成田崇信先生
朝食を食べない、食事を楽しめない、「いただきます」「ごちそうさま」がいえないといった、食への社会性や関心の低下は食生活の乱れを招いて、子どもの健康に影響を及ぼすこともあります。そこで、子どもの健康と豊かな心をはぐくむために積極的に取り組みたいのが「食育」です。
食育をとおして、子どものころから身につけたいことは、「食べ物を大事にする感謝の心」「好き嫌いしないで栄養バランスよく食べる」「食事のマナーなどの社会性」「食事の重要性や心身の健康」などがあります。今回は、このなかから子どもの栄養バランスを中心に解説していきます。
「子どもが朝ごはんを食べたがらない」「好き嫌いが多くてごはんを残しがち」「おかしばかり食べてごはんを食べない」――こんな食生活の子どもは少なくありません。
子どもが3食のうち朝食を抜くと、1日に必要な栄養素をとることが難しくなってしまいます。子どもの胃は小さく、消化機能も十分には発達していないので、一度の食事で大人のようにまとめてたくさん食べることができないからです。
子どもはからだが小さい分、エネルギーや栄養素も大人より少なくてよいだろうとイメージしがちですが、体重1kgあたりで比べてみると、じつは大人よりかなり多く必要です。たとえば、2歳児に必要なエネルギーは大人の約2倍、たんぱく質も約2倍、カルシウムは約3~4倍も必要なのです。必要な量の栄養素がとれないと、成長や発達に悪影響を及ぼすことがあるほか、免疫力が低下してかぜなどの感染症にかかりやすくなる可能性があります。
具体的に1~2歳の男児の参照体重(11.5kg)でみると、1日にエネルギーは950kcal、カルシウムは450mg、たんぱく質は20g必要となります。そうはいってもどうしたらいいのか、なかなかピンとこない人も多いでしょう。これから栄養素のとり方のヒントや、どのような食品に含まれているかを説明していきます。
「日本人の食事摂取基準2025」より作成
「体重1kgあたりの推定エネルギー必要量・身体活動レベルふつう」の数値、およびたんぱく質・カルシウムの推奨量を参照体重で割った数値
からだの材料になるたんぱく質は、成長期にはとくに重要な栄養素です。不足すると成長障害や体力・免疫力の低下などがおこります。子どものたんぱく質の平均摂取量は推奨量よりも多くなっていますが、肉や魚などが苦手な子どもは不足しやすいので注意が必要です。
●多く含む食品&とり方のヒント たんぱく質を多く含む卵、魚(さば、さけ、まぐろ、かつおなど)、肉類、大豆・大豆製品、牛乳・乳製品などを、毎食1~2種類とりましょう。いろいろな食品を組み合わせることで、体内でたんぱく質がより効率よく使われます。毎日のメインのおかずが肉類に偏るとカルシウム不足やエネルギーが多くなりがちなので、魚を意識的にとり入れることも大切です。
「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」より作成
骨や歯をつくるのに欠かせないのがカルシウムです。成長期にカルシウムが不足すると骨の発達障害がおこり、将来的には骨がもろくなる骨粗しょう症のリスクが高まります。子どものカルシウムの平均摂取量はほとんどの年齢で足りていないため、意識してとることが大切です。
●多く含む食品&とり方のヒント 煮干しやししゃもなどの丸ごと食べられる小魚や、骨ごと食べられる魚の缶詰などはカルシウムの優秀な供給源。煮干しや干しえび、青のりなどを使った手作りふりかけも手軽なカルシウム源になりますね。
子どものカルシウムの推奨量と現在の摂取量
カルシウムの推奨量を把握して、日ごろの食事で意識してカルシウムをとりましょう。
推奨量は「日本人の食事摂取基準2025」より作成。摂取量は「国民健康・栄養調査令和5年版」より作成
ビタミンDにはカルシウムの吸収を促し、骨をつくるのを助ける働きがありますが、子どものビタミンDの平均摂取量はほとんどの年齢で目安量に足りていません。たとえば、10~11歳男児の1日の目安量8μgに対して、摂取量は5.3μgと不足しがちです。ビタミンDは日光を浴びると体内で合成されますが、冬の時期は十分な合成が難しいので食品でとるようにしましょう。
●多く含む食品&とり方のヒント ビタミンDの多い鮭、さば、さんま、いわしなどの魚を積極的にとりましょう。焼き魚や刺身のほか、水煮缶を使えば手軽にビタミンDとカルシウムを同時にとることができます。また、鶏卵には比較的ビタミンDが多く含まれていますので、魚が苦手な子どもにおすすめです。このほか、まいたけや干ししいたけなどのきのこ類にも多く含まれています。
「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」より作成
食事は毎日のことなので、日々完璧にするのは大変です。家庭での「食育」は気負わず、忙しいときなどは、スーパーで売っているお総菜や加工食品を活用するのも一つの方法です。こうした食品を使うときは、サラダを追加して野菜不足を補ったり、魚肉ソーセージを追加してたんぱく質不足を補うなどするのがおすすめです。
食事の時間は、家族団らんの場でもあり、子どもの成長を確認できる貴重なタイミングでもあります。子どもが成長してくると、今まで苦手だったものが食べられるようになったり、小さなお茶碗ではごはんが足りなくなったりなどの変化が見えてくるはずです。
できることに取り組みながら、子どもと一緒に「おいしく」「楽しく」食事をとること。これが家庭での「食育」の基本です。